ソフトウェア工学の今昔?

PC環境の引っ越しなどでご無沙汰していたのですが久しぶりにAn Agile Way:オルタナティブ・ブログを見ていて「「測定できないものは制御できない」は誤りだった。-- by Tom Demarco:An Agile Way:オルタナティブ・ブログ」という記事でトム・デマルコのあるコラムを発見しました。
その内容はソフトウェア工学は今は昔となってしまったということだそうです。

Software Engineering: An Idea Whose Time Has Come and Gone?
http://www2.computer.org/cms/Computer.org/ComputingNow/homepage/2009/0709/rW_SO_Viewpoints.pdf

このデマルコのコラムに関して私の解釈を書いてみたいと思います。
ここでデマルコが言っているソフトウェア工学とは、その成り立ちから、ソフトウェア開発プロジェクトをコントロールすることを言っている様です。
このコントロールというのはあくまでもプロジェクトがある特定の意図の通りの結果となるように制御することであって、良い結果を追求するために最善の努力を行うという広い意味のマネージメントとの関係でいえば一つの手段だと言えると思います。
デマルコは今となってはソフトウェア開発プロジェクトをコントロールすることは良い結果を追求するというマネージメントの観点からするとその価値がほとんどなくなったと考えているようです。
ソフトウェア開発プロジェクトをコントロールすることの価値がほとんどなくなったと考えられる説明として二つの観点を上げています。
一つはソフトウェアの生み出す経済的な価値が大きくなったことに関連して、ソフトウェアの価値をプロジェクト開始当初の特定の意図通りとなる努力を行うよりもその価値を最大化(あるいは損失を最小化)する努力を行う方が意義があると考えられるということです。この観点は以前に書いた「ソフトウェア開発プロジェクトはコストセンターか? - Jamzzの日々」に通じるものだと思います。
もう一つは、有名な「測定できないものは制御できない」の言葉に象徴されるように、メトリクスはコントロールのために必要だと考ていたが現実的には適切なメトリクスを設定し適切に計測し、そして適切に評価することは非常に困難であるということです。これはそもそも初めからそうだったのではないかと思うのですが、当初はそのチャレンジ自体がソフトウェア工学の可能性の夢を追うことと混同することがあったのではないかと思います。また、やはりソフトウェア開発がコストではなく価値を生み出すという面が大きくなったことにより還元主義的な考え方では手に負えなくなってしまったのではないかと思います。
そしてデマルコはこれらの現実を踏まえてアジャイル的なアプローチの可能性に言及しています。


このようなデマルコの見解はまさに我が意を得たりという感じで以前から主張していることなのですが、それでも改めてデマルコによるこのような意見の表明は私にとっても衝撃的でした。
というのも私が目にする現実では、プロジェクトをコントロールすることそしてそのためにメトリクスを計測・評価することがマネージメントの手段を通り越してその目的、あるいはマネージメントそのものを意味するような組織が少なくないと感じているからです。そしてそのような組織のなかで非常に真面目に努力しているにも関わらず報われていない組織が少なからずあるように感じています。
そのような組織のマネージャーはこのコラムを見てどう思うでしょうか。
私にとってはパラダイムシフトの可能性を感じさせる事件でしたので是非とも紹介したいと思いました。
そして機会があればいろいろな考えの方と議論したいと思っています。