情報処理学会ソフトウェア工学研究会「ウィンターワークショップ 2010・イン・倉敷」参加報告(その2)

情報処理学会ソフトウェア工学研究会ウィンターワークショップ 2010・イン・倉敷「アーキテクチャとパターン」セッションに参加しました。
大変更新が遅くなってしまったのですが前回の情報処理学会ソフトウェア工学研究会ウィンターワークショップ 2010・イン・倉敷参加報告(その1) - Jamzzの日々に引き続いて私が参加したセッション以外に関することについての報告をしたいと思います。

ソフトウェア工学活用での実務家の責任

夜の交流会(宴会)で大学の研究者の方々が、学術研究の評価基準となる論文の評価とその研究成果を実務へ適用した場合の価値が必ずも一致しないことのジレンマについての話をされました。
それは論文で評価される研究でもすぐに実務に適用して成果を出すことが難しかったり、また実務で成果が出せそうな研究が論文評価の対象となりにくかったり、でもできれば実務で効果をあげて感謝される方がやりがいを感じやすい、といった葛藤の話でした。
今まではソフトウェア工学が実務に使えない原因の一つとして研究者が実務の現場に理解がないことだと思っていましたが、このような大学の研究者の方の率直な話を聞いて衝撃を受けると同時に自分の理解不足を痛感しました。
その時に立命館大学の丸山先生より「学術研究のミッションは必ずしも直接的に実務に適用して効果を出すということではない」「実務への適用は実務家に任せればよい」という発言がありました。
以前であれば反発する感情が起こったであろうと思うのですがこのときにはもっともな話だと思いました。
さらに「アメリカではコンサルタントが学術研究の成果を実務に適用して効果を上げる役割を果たしている」「日本にはこのようなコンサルタントが少ない」とおっしゃいました。
この話を聞いて、なるほどこれはほぼ実務側の責任であると考えるようになりました。
ティーブ・マコネル氏もコードコンプリートの「はじめに」の一番最初で以下のように書いています。

本書を執筆するうえで私が最も配慮したのは、業界の第一人者や教授らの知識と、一般的な商用プラクティスとの差を縮めることである。多くの強力なプログラミングテクニックは、一般のプログラミングに浸透するまで何年もの間、専門誌や学術論文に埋もれている。

その場には豆蔵の羽生田さんがいらしたのですが、羽生田さんこそ日本の中で実務家としてこのような役割を担っている第一人者の一人であり、サラリーマン時代の私は羽生田さんのコラムなどから情報を得て多くを学んできたのでした。
このようなうな役割を担うことで業界、そして社会に貢献し、その結果大学の研究者の方も実務の現場も幸せになるのであれば、今の自分はまさにこの役割を担うべき立場にあると感じました。
自分の今後のミッションに関わる、良い経験となりました。

◇サービスと機能の違い

やはり夜の交流会(宴会)でサービスと機能の違いについて議論がありました。
「サービスというものはある意味では特定の機能とも言えるし、でもやはりサービスはサービスである」「一体サービスと機能の違いは何だろう」ということでした。
私はこの議論を聞いていてサービスとはそのサービスの提供側と受ける側の両方の関係により定義されるものであって、その提供側だけをみるとそれは機能として表現されるという考えに至りました。
ソフトウェアを開発する立場では主にサービスの提供側の機能に着目すると思いますが、そのような立場でサービスの価値について考えると禅問答の「隻手の声」(拍手の音でその片方の手だけの音はどのような音であるか)の如くわからなくなってしまうのだと思いました。
このことは要求仕様(要件)についても同様に言えることだと思います。
ここであるべきサービスやあるべき仕様など、あいまいで複雑な葛藤について考える必要がある場合にやはり「フォース」が使えるのではないかと思います。
具象に依存する潜在的な要求を発掘するのは難しいと思います。
当然そこには利害関係者間のコミュニケーションが重要であることは明らかですが、別のアプローチとして、具象に依存しないで潜在的ではあるが一般的な「フォース」の葛藤による表現であれば群衆の意見(集合知)や過去の経験などの大量のデータから発掘する(=パターンを見出すということか?)ということができて、この方がまだ可能性が高いように思えます。(あくまでもコミュニケーションが欠如した場合に比較してということですが、、、)

◇形式手法

私もソフトウェア工学活用での実務家の責任を果たそうと考えた時、今までも自分の興味のあることについてはいろいろと調べて、実践して、良いと思ったものをお客様に提案してきました。
しかし問題なのはあくまでも自分の興味の範囲であるのでお客様にとっては押し売りと変わらないかもしれないと思いました。
そこで今まで自分が取り組んでいなかった領域におけるお客様の悩みを想像してみました。
それでごく限られた部分ではあるが万が一の失敗の場合の影響が非常に大きい領域があってその課題解決には形式手法が有効そうだと思いました。
その後少し調査してみたところさらに可能性を感じましたので継続して調査を続けたいと思っています。

◇倉敷

最後にワークショップが行われた倉敷美観地区について、今回が初めての倉敷で事前の想像では小さなエリアで京都や滋賀(ジャムズは滋賀にあります)の観光地と変わらないだろうと思いあまり期待していませんでした。
しかし期待は良い方向に裏切られて二日間の滞在の間、非常に心地よく過ごすことができました。
都市部にある保存地区はちょとわき道に入ったりすると伝統的な雰囲気を損なうようないかにも観光地というようなところが目についたりすることがあると思うのですが今回の二日間の滞在ではそのようなことものなく雰囲気に浸ることができました。
二日目の朝に羽生田さんと本橋さんと朝の散歩に出かけたのですが町の朝は観光施設ではない、時代を感じる建物にマッチしたそこに住む生活者の朝でした。
朝の散歩で訪れた倉敷総鎮守の阿智神社では女性の宮司の方に誘われて毎日の祭事である日供祭に参列させていただき、とてもスローな朝(?)を過ごさせてもらいました。(セッションメンバーの方、ごめんなさい)
ワークショップの後に羽生田さんと本橋さんはさらに倉敷を探索されたようです。
私は美観地区以外へは行きませんでしたが二日間ぐらいをゆっくりと浸るのにはとても良いところだと思い見ました。
また機会を見つけて訪れてみたいと思います。

情報処理学会ソフトウェア工学研究会ウィンターワークショップ 2010・イン・倉敷の参加報告は以上です。
繰り返しになりますがこの二日間は自分にとって大変有意義な経験となりました。
ワークショップの期間中にお世話になった皆様、特にセッションリーダーの早稲田大学の鷲崎先生と豆蔵の羽生田さんにはこの場を借りてお礼を申し上げたいと思います。
ありがとうございました。
今後も可能な限りこのようなベントに参加したいと思います。