Agile Japan 2009に参加しました

Agile Japan 2009に参加しました。
具体的な内容については他の参加者の方が詳細にレポートされていますので、ここでは私が思ったことを中心に書きたいと思います。
先ず、以下の内容が伝わりやすいように少しだけ私自身について書くと、私は業務としてアジャイルを普及するために普段よりアジャイルの動向を調査し研究しています。
今回Agile Japan 2009に参加した動機はアジャイル普及のために最新動向の調査ということもあります(特にメアリー・ポッペンディーク氏の公演に期待していました)が、それだけでなく、日本のアジャイル普及の記念すべき日であるAgile Japanの第一回目に参加することも重要な目的でした。


キーノートセッションでメアリー・ポッペンディーク氏と黒岩惠氏の話を聞いて私なりにまとめると以下のようなことだと思いました。

  • 製造業のプラクティスに学ぶべきところが多くある*1
  • 現在の製造業のプラクティスは欧米による日本の製造業の研究成果(形式知)である
  • TPS(トヨタ生産システム)の本質*2は自らを改善し最適化することができる人を育てて組織を作る「システム」であり、決してプラクティス(形式知)を寄せ集めたものではない
  • 既存のプラクティス(形式知)を利用するのではなく、継続的に自ら課題を認識して解決できなければならない(だから自分で考えろ!)
  • 日本的な良さ(優位性)を見直すべきである

当日参加されなかった方の参考として書きますが、Agile Japan 2009でのメアリー・ポッペンディーク氏の話はほとんどがAgile2007の際の発表の内容でした。
Agile2007の際の発表内容は平鍋健児氏の以下のブログの記事で紹介されていますので以下のURLをたどって見ることができます。

また、黒岩惠氏の話は内容的にはシステム企画研修株式会社の情報誌MIND-REPORT No.81(2008.4)の巻頭言で発表されていた内容でした。

当日の黒岩惠氏の話はこの内容の他にもいろいろと脱線した話などがありました。
熱い思いがあることは伝わってきましたが、時間をオーバーしてまで伝えたかったことが何なのかは正直いって私にはよくわかりませんでした。


午後のコミュニケーションタイムでは「事例:ユーザー企業責任で25サイトをアジャイルに開発」と「モチベーション駆動開発〜パッケージ開発の現場から〜」のいずれも事例セッションに参加しました。
午後の事例セッションと合わせて3つの事例を聞いた感想としては、やはり良くわかっている賢いユーザー企業から変って行っているのだということを実感しました。
つまり、ユーザーが自分たちが何が必要でどういう優先順位でどれだけあれば充分であるのかがわかって(あるいは判断できて)いて、現在の状況に対応するには適応型でなければならないことを自覚しているところで大きな成果をあげているということだと感じました。
この様なユーザーであればおそらくどのような手法を使ってもそれなりに成果は出ると思いますのでアジャイルの成果という点で見る場合には少し冷静に評価が必要だと思います。
またこの様なユーザー企業が最適な結果を追及する場合にアジャイルが成果をあげていることは疑いのない事実だと思いますが、この様なユーザーはキャズムにおける「イノベーター」の域を脱していないと思います。
アジャイルの普及を考えた場合、次のステップとしては確信した自覚はないが興味があるという「アーリーアダプター」候補のユーザー企業を開拓しなければならない状況だと思います。
普及にはまだ先が長そうに思いますが、最近の動向を聞いていて思うことは、プログラマ(現場)対マネージャー(中間管理層)の対立の構図である限りダメなのだろうと思えます。
アジャイルが本当に価値を生み出すのであればユーザー企業は積極的に採用するだろうし、お客様であるユーザー企業が変われば頭の固い管理層も変らないわけにはいかないと思います。
平鍋健児氏が「次回は経営者を連れてこよう」と言っていましたが、やはりユーザー企業や経営層への啓蒙活動が重要なのだろうと思います。


他にもいろいろとありましたがあえてすべてを拾って書くことはしないでおきます。
そしてあとは本当に個人的な感想を書いてみます。

  • 全般的に同好会的な雰囲気につつまれていて快適な時間を過ごすことができた。
  • 一方で岡島幸男氏が指摘したように本気で実際にアジャイルに取り組んでいればもっと様々な意見や対立があって当然だと考えると、アジャイルの実践的普及はまだまだなのだと感じた。
  • 平鍋健児氏のブログで知っていたのでメアリー・ポッペンディーク氏にはもっと違った最新の話題が聞きたかった。
  • あるいは黒岩惠氏のようにもっと明確に分かりやすく、メアリー・ポッペンディーク氏にも「日本人はいったい何しているの?」的な説教をしてもらっても良かったかもしれない。
  • 黒岩惠氏の「アメリカでは様々な人種による組織なので低コンテキストなコミュニケーションが必要になる。一方で日本は高コンテキストなコミュニケーションを前提とすることができる」という話が面白かった。
  • コミュニケーションの状況においてどれぐらいコンテキストに依存するべきかという観点での考察は面白いかもしれない。

おそらく私のアジャイルの普及に対する期待が大きすぎるために、今回のAgile Japan 2009の感想はネガティブな内容が多くなってしまったのだと思います。
しかし冷静に客観的に考えれば、今回が初めてでこれがキックオフだと思えば大成功だったと思います。
次回Agile Japanも参加したいと思いますし、今後発展に期待したいと思います。

*1:リーンソフトウェア開発とスクラムはまぎれもなく日本の製造業研究成果応用の直系で、私もここから「トヨタ生産方式――脱規模の経営をめざして」や「知識創造企業」に入って行きました。

*2:本質というか、他との根本的な違いと言った方が正しいかもしれない。例えばバリューストリームのスループットを最大化するという「価値」は制約条件の理論(TOC)と同じだと思うが、現場主導でボトムアップの改善システムである点が欧米のトップダウンのシステムと根本的に違うのだと思う。